246 研究領域の現状
6-5 生命・錯体分子科学研究領域
生体分子機能研究部門
青 野 重 利(教授) (2002 年 5 月 1 日着任)
A -1).専門領域:生物無機化学
A -2).研究課題:
a). ヘム含有型気体分子センサータンパク質の構造と機能に関する研究 b).ヘムをシグナル分子とする新規な転写調節因子の構造と機能に関する研究
A -3).研究活動の概略と主な成果
a). 緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)の酸素に対する走化性(A erotaxis)制御系において酸素センサーとして機能する シグナルトランスデューサータンパク質である A er2 タンパク質が,ヘムを活性中心とする新規な酸素センサータン パク質であることを見出した。A er2 タンパク質では,分子中に存在する P A S ドメインがセンサードメインとして機 能しており,P A S ドメイン中にヘムが含まれていることが分かった。ヘム含有 P A S ドメインを有するセンサータン パク質は,これまでにいくつか報告されている。代表的なものとして,F i x L ,EcDOS などがある。これらのヘム含 有 PA S ドメインと A er2 の PA S ドメインのアミノ酸配列を比較すると,A er2 のアミノ酸配列中で,F i xL ,EcDOS に
おいてヘム近位側軸配位子として機能している H i s に対応する位置に H i s(H i s234)が保存されている。H i s234 を A la に置換した H234A変異体は,ヘムをほとんど含まないアポ体として発現することが分かった。これらの結果より, A er2 では H i s234 がヘム近位側軸配位子として機能していると考えられる。共鳴ラマン分光法を用いて A er2 のヘム 近傍構造の解析を行い,ヘムに配位した酸素あるいは一酸化炭素と相互作用するアミノ酸残基の同定を行った。 b).乳酸菌(Lactococcus lactis)はヘム生合成系を欠損しているが,外部からヘム分子を取込むことにより酸素呼吸によ
り生育可能である。しかし,必要量以上に取り込まれたヘム分子は,活性酸素産生などにより細胞毒性を示すため, 細胞内のヘム濃度は厳密な制御を受けている。本年度の研究において,Y gfC タンパク質が乳酸菌細胞内のヘム濃度 制御に重要な役割を果たしていることを明らかにした。Y gf C は,ヘムをシグナル分子(エフェクター分子)とする 転写調節因子であり,その D N A結合活性がヘムの有無により制御されていることを明らかにした。ヘムを含まない アポ型 Y gf C は,D N A結合活性を有しており,リプレッサーとして機能していると考えられる。一方,ヘムが結合 することにより,Y gfC は DNA結合活性を失うことが分かった。
B -1). 学術論文
H. SAWAI, S. YOSHIOKA, T. UCHIDA, M. HYODO, Y. HAYAKAWA, K. ISHIMORI and S. AONO, “Molecular Oxygen Regulates the Enzymatic Activity of a Heme-Containing Diguanylate Cyclase (HemDGC) for the Synthesis of Cyclic Di-GMP,”
Biochim. Biophys. Acta, Proteins Proteomics 1804, 166–172 (2010).
H. NAKAJIMA, N. TAKATANI, K. YOSHIMURA, M. ITO, S. AONO, Y. TAKAHASHI and Y. WATANABE, “The Role of the Fe–S Cluster in the Sensory Domain of Nitrogenase Transcriptional Activator VnfA from Azotobacter vinelandii,” FEBS J. 277, 817–832 (2010).
研究領域の現状 247 B -4). 招待講演
S. AONO, “A new oxygen sensor protein adopting a heme-containing PAS domain as a sensor for aerotaxis control,” Pacifichem 2010, Honolulu (U.S.A.), December 2010.
S. AONO, “Trap of the Michaelis Complex of a Novel Heme Enzyme, Aldox Dehydatase,” 6th International Conference on Porphyrins and Phthalocyanines (ICPP-6), New Mexico (U.S.A.), July 2010.
澤井仁美,杉本宏,加藤康夫,浅野泰久,城宜嗣,青野重利 ,.「ヘム蛋白質の新規な構造と機能:アルドキシム脱水酵素の 活性制御機構」,.日本蛋白質科学会2010年度年会 ,.札幌 ,.2010 年 6月.
B -7). 学会および社会的活動 学協会役員等
触媒学会生体関連触媒研究会世話人.(2002–.). 日本化学会生体機能関連化学部会幹事.(2007–.). 日本化学会東海支部常任幹事.(2009–2010). 学会の組織委員等
第14回国際生物無機化学会議組織委員会総務委員長.(2009).
J apan-K orea.Seminar.on.Biomolecular.Sciences—E xperiments.and.Simulations 組織委員.(2008–2010). 文部科学省,学術振興会,大学共同利用機関等の委員等
日本学術振興会特別研究員等審査会専門委員.(2005–2007). 日本学術振興会国際事業委員会書面審査員.(2005–2007). 日本学術振興会科学研究費委員会専門委員.(2010–.). 学会誌編集委員
J. Biol. Inorg. Chem., Editorial Advisory Board (2002–2004). Biosensors, Editorial Board (2010– ).
B -10).競争的資金
科研費特定領域研究(公募研究),.「一酸化炭素をエフェクターとする転写調節因子の一酸化炭素応答および D N A認識機 構」,.青野重利.(1998年 –2000 年 ).
科研費基盤研究 ( C ) ,.「シグナルセンサーとしてのヘムを有する転写調節因子の構造と機能に関する研究」,. 青野重利. (2000 年 – 2001年 ).
科研費特定領域研究(計画研究),.「一酸化炭素センサーとして機能する転写調節因子 C ooA の構造と機能」,. 青野重利. (2000 年 –2004年 ).
科研費基盤研究 (B),.「ヘムを活性中心とする気体分子センサータンパク質の構造と機能」,.青野重利.(2002 年 –2003年 ). 科研費萌芽研究 ,.「気体分子センサータンパク質の構造機能解析とそのバイオ素子への応用」,.青野重利.(2002 年 –2003年 ). 東レ科学振興会科学技術研究助成金 ,.「気体分子による生体機能制御のケミカルバイオロジー」,.青野重利.(2003年 ). 科研費基盤研究 (B),.「生体機能制御に関与する気体分子センサータンパク質の構造と機能」,.青野重利.(2004年 –2006年 ). 科研費若手研究 ( B ) ,.「新規な金属中心を有する酸素センサータンパク質の構造とシグナル伝達機構」,. 吉岡資郎. (2005年 – 2006年 ).
248 研究領域の現状
科研費特定領域研究(公募研究),.「タンパク質配位空間を利用した気体分子センシングとシグナル伝達」,. 青野重利. (2005年 –2007年 ).
内藤記念科学振興財団内藤記念科学奨励金(研究助成)「気体分子によ,. る生体機能制御のケミカルバイオロジー」,.青野重利. (2006年 ).
倉田記念日立科学技術財団倉田奨励金(研究助成),.「一酸化炭素,一酸化窒素,酸素による遺伝子発現制御の分子機構」,. 青野重利.(2006年 ).
科研費若手研究 (B),.「新規な機能を有する酸素センサータンパク質における機能発現機構の解明」,. 吉岡資郎. (2007年 –2008 年 ).
科研費基盤研究 ( B ) ,.「気体分子を生理的エフェクターとする金属含有センサータンパク質の構造と機能」,. 青野重利. (2007年 – 2009年 ).
科研費特別研究員奨励費 ,.「ヘムを活性中心とする気体センサータンパク質の構造と機能の相関」,. 澤井仁美. (2007年 –2009 年 ).
科研費特定領域研究(公募研究),.「ガス分子により駆動される新規なセンサータンパク質の機能発現機構」,. 青野重利. (2007 年 –2010 年 ).
科研費若手研究(スタートアップ)「ヘム結晶化の分子機構解明」,. ,.石川春人.(2009年 ).
科研費研究活動スタート支援 ,.「ヘム含有 PA S ドメインをセンサーとする新規なシグナル伝達タンパク質の構造と機能」,. 澤井 仁美.(2010 年 –2011年 ).
C ). 研究活動の課題と展望
近年,酸素(O2),一酸化炭素(C O),一酸化窒素(NO)などの気体分子が生理的なエフェクター分子として機能し,遺伝子 発現制御,走化性制御,セカンドメッセンジャー(cyclic. di-G MP)の合成/分解制御など様々な生理機能制御に関与してい ることが報告され,気体分子の新規生理機能として大きな注目を集めている。当研究室では,これら気体分子が生理機能を 発揮するために必要不可欠な気体分子センサータンパク質を研究対象とし,それらの構造機能相関ならびに機能発現機構 を分子レベルで明らかにすることを目的として研究を進めている。今後は,構造生物学的な実験手法を活用し,これら気体 分子センサータンパク質のより詳細な構造機能相関解明を進めるとともに,気体分子以外の小分子,金属イオン等のセンサー タンパク質に関する研究にも取組みたいと考えている。